雛人形の種類

「雛人形」と聞いてどのようなものを想像されるでしょうか?
台座に綺麗に並んだたくさんのお人形とお道具というのが一般的なイメージかもしれませんが、
実は雛人形には様々な種類があり、ご家庭に合わせて選ぶことができます。
ここでは、親王飾りや五人飾りなどの雛人形の種類と、お人形やお道具の名前についてご紹介します。

雛人形の種類とは

親王飾り


親王飾りは、雛人形のうち天皇、皇后を模した男女一対の内裏雛だけで構成されるものです。
親王とは天皇の嫡出子のこと。室町時代頃まではこの親王飾りが一般的な雛人形であったといわれています。

五人飾り


親王飾りに三人官女が加わった五人飾り。女性のお人形が増えて見た目もぐっと華やかに愛らしくなります。
中央に配する、座り官女が持つのは三方や島台です。江戸雛は三方に盃、京雛は島台が一般的。
向かって左の官女は鍋のような形の提子(ひさげ)、右の官女は長柄という柄の長いひしゃくのような道具を持ちます。これはどちらもお酒を注ぐための道具です。

十人飾り


上で紹介した人形に五人囃子が加わります。四人の楽器演奏者と一人の謡(うたい)で構成されます。
向かって左から台の上に乗せた太鼓とばち、大鼓、小鼓、笛、と小道具を持たせ、一番右の謡は右手に扇を持っています。
にぎやかで陽気な雰囲気が加わります。

十五人飾り


内裏雛、三人官女、五人囃子の十人に、右大臣・左大臣、仕丁(三人)の計五人が加わります。
段数も五段から七段にもなり、非常に豪華な雛人形です。ごく最近では、並び方にはこだわらず、三段程度の台に十五人を見栄え良く配置するものも。雛人形の飾り方には厳格な決まり事もなくなりつつあるのかもしれません。

段数で数える(七段、五段、三段、二段)場合は?

雛人形は人形の数以外にも、○段飾りなど段数で呼ぶこともあります。一般的に親王飾りは一段、三人官女までのものは二段、五人囃子まで飾るものは三段、右大臣・左大臣・三人の仕丁や婚礼道具を加えたものが五段、七段となります。
段数が増えるにしたがって豪華さは増しますが、飾る際のスペースもそれだけ多く必要です。小道具や備品も多くなるため、段数が増えるほど管理にも注意が必要という側面がありそうですね。

立雛


立雛とは立ち姿の雛人形のこと。雛人形のルーツの一つをたどっていくと平安時代に貴族の幼児に代わり厄災を受けたとされる男女のお人形にたどり着きます。男の子の人形を「天児(あまがつ)」、女の子の人形を「這子(ほうこ)」といい、後に貴族の女性が着物の端切れで豪華な衣装を着せるようになりました。これが雛人形の原型で、その姿は立雛であったといわれています。
立雛の多くは親王飾りで、陶器製などカジュアルなものが多いため初節句にはふさわしくないといわれることもあります。しかし立雛は雛人形のルーツ。古来より存在する伝統的な形ですので初節句のお祝いにしてもなんら問題はありません。

雛人形のお人形

お殿様とお姫様

お殿様とお姫様が一対になった雛人形を内裏雛といいます。
内裏とは天皇の住まう宮殿のことで、雛人形は天皇・皇后の婚礼の様子を表したものです。

雛人形には「持ち主の代わりに厄災を受ける」という意味合いのほかに、天皇・皇后(お殿様、お姫様)のように繁栄した人生を送ってほしいという願いが込められています。だから豪華できらびやかなお殿様とお姫様の一対なのですね。

このお二人の並び方、一般的にお殿様が向かって左、お姫様が向かって右が多いのですが、本来の並び方は逆。現代でも京雛など伝統的な雛人形は向かって右がお殿様、向かって左にお姫様が並びます。
これは古来より公家では左が上位であったためです。

しかし江戸時代の頃より、武家の並び方である向かって左がお殿様、向かって右がお姫様の江戸風が増えてきました。政治の中枢が京都から江戸に移ったことも無関係ではなかったでしょう。
それに加え、昭和天皇の御即位の際、天皇・皇后は欧米の例にならい、江戸風の並び方でお出ましになりました。
そのころから雛人形は、向かって左が男雛、向かって右が女雛とされることが多くなってきたのです。

三人官女

三人官女は宮殿でお姫様のお世話をする高位の女官です。
お姫様が幼い時から身の回りの世話をし、輿入れの際にお姫様と一緒にやってきます。日常の雑務のほか、さまざまなアドバイスやサポート、時には話し相手や慰め役などもしていたでしょう。
二段目におられることから、内裏内でも重要なポストだったことがわかりますね。

三人官女のうち、眉が薄くお歯黒を塗っている官女が一人。眉を剃ってお歯黒で歯を染めるのは既婚者の証であることから、この女性が女官の中でも年上で、まとめ役であったことがうかがわれます。
現在でいう「お局様」のように若い二人をしっかりと教育していたのではないでしょうか。

五人囃子

「楽しいひなまつり」の歌にあるように、笛や太鼓を演奏し、婚礼を盛り上げるのが五人囃子のお役目です。
この合奏隊は元服前の少年たちで構成されています。そのため、髪は結わずにおかっぱのような童形のお人形になります。

少年とはいえ、天皇・皇后の御前で演奏するのですから、その腕は一流。この晴舞台を迎えるため日夜練習に励んて来たに違いありません。
お顔をよく見れば、少し緊張した面持ちのようにも見えてきますね。

右大臣・左大臣・お供の仕丁

右大臣・左大臣は小道具として弓矢などを持つ武官です。
身分は諸説あり、随身(お供として付き従い天皇の雑用をこなす)とする場合もありますが、着用している袍(ほう)の位が高いので、もっと位の高い武官だとする説が一般的です。
「右大臣」「左大臣」といわれていますが、実際は貴族の装束ではなく武官の装束なので、これも少し違うようです。
しかし現代では愛称として右大臣・左大臣の呼び名で親しまれています。
お殿様から見て左側が位の高い席とされている古来の並びにしたがって、年配の大臣がお殿様の左を守ります。右には若々しく明るい袍を着た右大臣を。
この並びだけは古来よりの京風にしたがっているところがおもしろいですね。

仕丁というのは、お殿様の周りの雑務をこなす人達です。
婚礼場面に登場する人物の中ではやや位は低くなります。台傘、沓台、立傘などを持つことから(京風ではほうきやちり取り)、お殿様の行く先々で脱いだ靴の始末をしたり、傘をさしたり忙しく立ち働いていたのでしょう。
婚礼場面の雛人形において、唯一の庶民出身であることも大きな特徴。泣き顔、怒り顔、笑い顔とそれぞれ表情豊かです。
何事にも動じないのが美徳とされた宮中で、泣いたり笑ったり、現代の私たちに通じる人間味を感じさせるところが仕丁の大きな魅力ですね。