木目込み雛人形とは?特徴やおすすめは?

雛人形には「木目込み」といった、木片や粘土のようなもので人形の型を作り、
着物の折れ目やしわの部分に切れ込みをいれた製法があります。
こちらでは木目込み雛人形の特徴、衣装着人形との違い、製法について解説しています。

木目込み人形(雛人形)とは?

木目込み雛人形の一番の特徴は、そのかわいらしさでしょう。ころんと丸いフォルムでぽってりとしています。お顔はひとつひとつ手書きで描かれ、どのお人形も個性豊かな深い味わいがあります。素朴で優しいお顔の多くは、やや微笑んだような稚児顔。見ている人の心を和ませるような雰囲気のものが多いものです。
また、実用的な利点も多く、木の型に着物を貼り付けるスタイルは着崩れしにくいため、お人形が長持ちします。雛人形を幼い子供と一緒に飾りたい時、あまり神経質にならなくても着物が乱れてしまったりしないのもいいですね。
多くは手のひらサイズの小さなお人形ですので、並べて飾っても比較的コンパクトに収まります。昨今の住宅事情では畳の部屋や床の間は少なくなっていますから、飾り棚などに収まるサイズであることが、人気の理由の一つにもなっているのでしょう。
また、木目込みの雛人形は作者によるお顔や雰囲気の違いが如実に現れるといわれています。それぞれの芸術性がより出やすいお人形のため、数ある中から好みのお人形を探し出す楽しみもあります。
どことなくお子さまに似た人形を選んだり、なぜか惹かれるお顔があったり・・・。きっとあなたにピッタリのお人形がみつかるでしょう。

木目込み雛人形の歴史・ルーツ

親しみやすいお顔立ちで、多くの人に愛されている木目込み雛人形ですが、その成り立ちや歴史はどういったものなのでしょうか?
元々、「雛祭り」は平安時代の中頃に始まったと言われています。
その当時、「上巳の節句(じょうしのせっく・じょうみのせっく)」と呼ばれる、穢れ(けがれ)を祓う行事がありました。
上巳の節句では、紙や藁などで作った「人形(ひとかた)」と呼ばれるお人形に、お子様の身代わりとして凶事を託して川に流す、「流し雛」が行われており、お子様の健やかな成長・健康を願う風習として、徐々に根付いていきました。
また、そういった風習と並行して、平安貴族の子女を中心に「ひいな遊び」と呼ばれる、人形を使ったままごと遊びも行われていました。
雛祭りは、これらのお祓い文化と「ひいな遊び」が結びついて生まれたといわれています。
誕生当初は貴族の中で催される祭事でしたが、江戸時代に入ると、その文化も一般民衆へと広まっていきます。
この頃になると、様々な種類の人形やきらびやかなお飾りも作られるようになりました。木目込み人形が生まれたのもこの時代です。
今から約270年前の江戸中期、京都の上賀茂神社に仕えていた神官が奉納する柳筥(やないばこ:神事に用いられる箱)を作るかたわら、柳の木で人形を作ったのが木目込み雛人形の始まりとされています。
その当初は胴体に掘った溝に、神官の衣服の端布を埋め込んだ簡素なものでしたが、やがて江戸の人形師に伝わり、様々な創意工夫を経て、現在の木目込み人形の様式が確率したと言われています。

木目込み雛人形と衣装着雛人形の違い


木目込みに対して衣装着人形は、胴体になる木や藁などに、表地や裏地を合わせ、襟、袖、身頃を縫い合わせ付けた着物を幾重にも着せて作ります。最後にお顔や手を取り付けて完成。皆さんが普通イメージする雛人形とは、この衣装着人形のことでしょう。
衣装着人形のお顔は、人間のような大人顔。端正な気品あるお顔が特徴です。また、実際に布をかさねているため衣装も豪華で人形自体大ぶりなものが多くなります。
絢爛豪華で人目を惹くあでやかさがありますが、長年出し入れを繰り返しているうちに衣装が型崩れしたり、細かい付属品が破損したりすることもあるので、木目込み人形以上に扱うときの慎重さが必要でしょう。
素朴で扱いやすく、かわいらしい雰囲気の木目込み人形に対して、豪華でお道具やお顔の細部まで本物らしく作られた衣装着人形といったところでしょうか。

木目込み雛人形の魅力とは

そんな素朴で愛らしい木目込み雛人形ですが、さまざまな魅力が沢山つまっています。
では、その魅力とは一体どんなものなのでしょうか?順番にご紹介していきます。

やさしく、可愛らしい雰囲気のお人形

木目込み人形のお顔は可愛らしい造りのものが多く、赤ちゃんのあどけなさが残るようなお顔立ちが特徴的です。
ふっくらと丸みを帯びた佇まいからは、自然と優しい雰囲気が漂い、部屋全体をあたたかな雰囲気に変えてくれます。そのため、木目込み人形はお子様からご高齢の方々まで、幅広い世代の方に親しまれています。

作家ごとの個性的な造り

木目込み雛人形は、頭づくりや胴体の造形、またお衣装の差し込み(木目込み)など、様々な工程を経て作られます。
お顔づくりの技法一つをとっても、作家ごとの技が如実に現れますし、衣装の配色や組み合わせなどにも作家の個性が反映されます。
こういった風に、作り手の味わいが出やすいのも、制作の自由度が高い木目込み雛人形ならではの魅力といえるでしょう。

コンパクトで置き場に困らない

近年では住環境の変化などから、コンパクトな雛人形をお求めの方も多くいらっしゃいます。木目込み人形はそういったケースにもぴったりの場所を取らないミニサイズのものが多く、リビングやダイニングなど、少し空いたスペースに無理なくお飾り頂くことができます。また、収納に場所を取らないというメリットもあります。

扱いやすく、飾りつけが簡単

比較的サイズが小さい木目込み雛人形は、お飾り・お片付けの他、引っ越しなどの際にも非常にお手軽に取り扱うことができます。また、お人形だけでなく飾り台やお道具もコンパクトサイズなので、飾りつけや持ち運びが簡単です。

木目込み雛人形の製法

木目込み雛人形の製造部分は大きく分けて、頭・顔・胴体の三つです。
一つひとつの部位を作るのに、熟練の技と繊細な技術が必要なうえ、どこか一つの部分が欠けていれば雛人形は成り立ちません。
では、美と伝統技術が詰まった雛人形づくりについて、詳しくみていきましょう。

頭づくり

まず初めに行うのが雛人形の頭づくり。頭の部分は雛人形全体のバランスや雰囲気、目・鼻・口といった顔のパーツにも関わってくるため、製作工程において非常に重要な部分です。

生地づくり

粘土で作った頭の原型を木枠に入れて樹脂を流し込み、カマ(型)を作ります。
出来上がったカマに石膏を流し込んで、頭を作ります。

胡粉かけ

蛤の殻の粉末を水と膠(にかわ)で溶いた「胡粉(ごふん)」と呼ばれる顔料を、下塗り・中塗り・上塗りと、徐々にキメが細かくなるように塗り重ねます。
胡粉を調合する際には工房内の温度や湿度を加味する必要があり、高度な技術を必要とします。ちなみに、この「胡粉仕上げ」の技術は無形文化財にも登録されています。

頭の造形

頭の造形は大きく分けて「丸顔」「細面」「おぼこ顔」の三種類です。
福々しい赤ちゃんのお顔のような丸顔や、あどけなさの中に落ち着いた雰囲気も感じさせる細面、ぽっちゃりと愛らしいおぼこ顔など、お人形のデザインに合わせた、味わい深い顔に仕上げていきます。

お顔の作り方

次に、雛人形のお顔を作り上げていきます。お顔の部分は、作り手のセンスや技法によって大きく違いが出る部分です。

面相

目や唇など、お顔のパーツを書き足していきます。
原孝洲では「笹目」の技法を用い、30~50本もの細かい線で目を描くことで、仏様のような慈愛に満ちたお顔を作り上げています。
笹目の技法以外にも、髪の生え際を描く「かきさげ」では、筆を回転させて自然さを演出させたり、濃淡2色の朱色を使うことで唇の立体感を出したりと、職人の技が光ります。

結髪

上質な生糸と糊を用いて、額の溝に丹念に植え込んでいきます。
男雛はきっちりとした「髷(まげ)」に、女雛はふんわりと空気を含んだような「垂髪(すいはつ)」に結い上げます。

お顔の表情

表情を描く際には、頭の造形に合わせ、眉や目、かきさげの描き方を変えて表現します。
あどけなさを表現するために顔のパーツを中心に寄せて口角を上げて描いてみたり、墨の濃淡を活かして切れ長の笹目にすることで、奥ゆかしい表情を作り上げてみたりと、見る人の心を和ませる豊かな表情へと仕上げていきます。

胴体の造形

やさしく、丸みのある胴体は、木目込み人形の特徴でもあります。
肩のなだらかさや腕の位置、袖の厚みといった細かい部分にも気を配ることで、衣装を木目込む際の完成度に繋がっていきます。

カマづくり

粘土で胴体の原型を起こし、木枠にいれて樹脂を流し込んでカマを作ります。

カマ詰め

作ったカマに、桐の粉と正麩糊を混ぜ合わせた桐塑を詰めると胴体ができます。

ヌキ


木目込み人形はまず、粘土で作った原型の周りに樹脂などを流し込み、人形の前半分、後ろ半分に分けた「カマ」といわれる型を作ります。
その型に「※桐塑(とうそ)」という粘土のようなものを詰めて、前後のカマを合わせ一体にし、カマから桐塑でできた胴体を抜きます。この、カマから胴体を外す作業を「ヌキ」といいます。
※桐塑(とうそ)とは桐の粉と正麩糊(しょうふのり)を混ぜて作った粘土状の物

彫塑・筋掘り


胴体が抜けたら数日~1週間ほど乾燥させます。乾燥したら表面の凸凹をやすりを使い丁寧になめらかにする作業を行います。この時、ひび割れがあれば桐塑を足しながら竹べらなどを用いて慎重に補修していきます。この作業を「彫塑(ちょうそ)」といいます。
きれいに胴体の補正ができたら全体に「※胡粉(ごふん)」を塗ります。これは胴体のくずれを防ぎ、切り込みを入れやすくするために行うものです。
そして実際に布を入れ込むための切り込みを入れていきます。この作業は「筋掘り」といわれる工程。深さは2~3ミリ程度で、浅すぎても深すぎてもいけません。熟練の技が必要な作業です。
※胡粉(ごふん)は、カキやはまぐりなどの貝殻を砕き粉状にしたもので、室町時代のころより使われている顔料

木目込み


切り込みに糊を入れ、型紙より少し大きく切った布を丁寧に入れ込んでいきます。木目込ベラを使い、胴や生地に傷をつけないように細心の注意を払いながら行う作業で神経を使う工程です。
切り込みの溝に使う糊は、乾くのが遅いもち米糊などを使用しています。
非常に細かい作業で、布のしわが寄らないように逃がしながら、柄の出方がどうかなどを考え職人が一つ一つ手作業で行います。

取り付け


頭職人が作成したお顔や手を胴体部分に取り付けます。この時、向きや角度に注意しお顔を差し込み、髪をブラシで整えます。全体的に不具合がないか確認してお人形の完成となります。

原孝洲ならではのこだわり

ここまででご紹介したように、木目込み人形を作り上げるには様々な工程が必要です。
原孝洲では、その全行程にこだわり抜き、美と芸の限りを尽くし、心を込めてお人形を作り上げています。
例えば、胡粉仕上げや笹目技法といった原孝洲ならではの高度な技法を使ったり、目・眉・口・髪の生え際を全て筆で描き上げたりするのも原孝洲のこだわりです。
一見気づきにくい、お人形の後ろの部分や髪で隠れている耳の部分、衣装の質などの細部にまでこだわり続けるのも、お子様をはじめ、ご家族の方々に良い思い出をお届けしたいという気持ちがあるからこそ。
先代、原米洲の「心を筆の先に込めて描く」という教えを大切に、ぬくもりのある、生活に溶け込むようなお人形を、今もなお追求し続けています。
可愛らしく、実用性も兼ね備えた木目込み人形ですが、その制作過程や歴史を知ると、よりいっそう雛祭りを楽しめます。
皆様もぜひ、お人形の歴史や成り立ちを思い出しながら、長く愛せる雛人形を見つけてみてくださいね。